退職後に渡された誓約書を拒むことはできる?
会社を辞める際には退職届をはじめとするいくつかの書類を提出しますが、その中に「誓約書」というものが含まれていることがあります。
「誓約書」と聞くと漠然と怖いイメージがあるかと思いますが、退職時、あるいは退職後に企業側から渡された誓約書には必ずサインをしなければならないのでしょうか。
その誓約書を拒むことはできるのでしょうか。
今回は、そんな退職後の誓約書についての解説です。
退職時に会社から誓約書への署名を求められることがある
退職時に会社から「書いてください」と言われる書類の代表は「退職届」ですが、実はこの他にも複数の書類を提出するよう求められることがあります。
退職後に郵送を希望する書類のチェック用紙や、誓約書と書かれた書類などです。
この「誓約書」は、名称だけ聞くとビビってしまいそうですが、署名を求める企業は少なくありません。
そのほとんどが「業務で知り得た顧客情報をはじめとする機密情報を口外しない」というものであり、これは言うなれば当然のお約束事になります。
ただ、中には要注意の誓約書もあるので、しっかり見極めるのが大切です。
誓約書を書かせることは違法行為ではない
そもそも、企業が退職する労働者に誓約書を書かせることは法的にOKなのでしょうか。
これは、違法行為にはならず、法律でも認められています。
ただし、その誓約書の内容によっては人権侵害に該当することがあり、その場合は違法性が認められるケースもあります。
労働者にとって明らかに不利なものは要注意
誓約書の内容としては、前述の通りほとんどのものが「うちの会社の機密情報を漏らさない」という内容になっています。
この内容は至極まっとうなものであり、署名しても問題無いものです。
しかし中には「競合に転職しない」といった、労働者が不利益を被るような内容が書かれているものもあります。
実際に、このような内容が書かれた誓約書を突き付けられ「競合の内定をもらっているのに…どうしよう…」と困惑してしまったという事例があったそうです。
このように労働者が不利になるような誓約内容や、明らかに不当なもの、嫌がらせと思われるようなものが書かれた誓約書は要注意です。うかつにサインしてはいけません。
誓約書は端から端までしっかりと熟読する
誓約書にサインする時には、どんな内容であっても、そこに書かれていることは端から端まで3回以上熟読して、しっかりと漏れなく理解した状態にもっていってください。
早口で「あーこれは口約束みたいなもんだからテキトーにサインしといてー」などと言われ、急いでサインさせようとしてきても、絶対に負けてはいけません。
「しっかり読ませていただきます」とキッパリ言って、一言一句漏らさずに確認しましょう。
誓約書で分からないことや引っかかる点があれば必ず質問する
小難しい言葉が多用されていたり、よく分からない横文字が並んでいたり、表現として違和感を覚えるような文章があったり…と、何か引っかかることや、分からないことがあったら、必ず質問して納得できるまで答えを引き出してください。
「なんかよく分かんないけど、まぁいいや」でサインするのは危険すぎます。
「こういうことなら納得」という状態になって、初めてサインすべきです。
正当な誓約書で納得できる内容であれば署名してOK
しっかりと誓約書の内容を確認して、その内容にひとつも疑問点や不明点が無く、納得できるものであれば、そこで初めてサインしてOKになります。
先ほどから繰り返しているように、多くの誓約書は機密情報漏洩を防ぐためのものですので、このような内容のものであり、他に怪しい項目が無ければサインしても問題ないでしょう。
誓約書を拒むことは基本的に可能
誓約書へのサインを拒むことの可否ですが、基本的には可能です。
ただ、機密情報漏洩を防ぐためという目的の誓約書へのサインを拒否するということは、そういった情報を漏らしたいと思っているのか、と思われてしまう恐れがあるため、自分が納得した誓約書にはきちんとサインするのが無難です。
しかし、何か引っかかるものがある誓約書、納得できない誓約書に関しては、雰囲気に流されてサインすることなく、拒否する勇気を持つことが大切です。
「誓約書に署名しないなら退職させない」はただの脅しで法的な力は無い
もし、会社側から「誓約書に署名しないなら退職させない」と言われてしまっても、この言葉に法的な力は全くありません。
(ただし、先ほどの情報漏洩に関しては法に守られている部分でもあるため、万一「情報を故意に漏洩させる目的で署名を拒んだ」と裁判所に認められてしまうと大問題になる可能性があります)
特に、転職についての誓約については、就労の自由という権利が全ての人々に認められているため、これを企業がコントロールすることはできません。
堂々と誓約書へのサインを拒否して何の問題もありませんし、退職できないということもありません。
自分に不利な誓約内容だった場合は絶対に署名しない
誓約書へのサインは自己責任です。
どのような形であれ、どのような事情であれ、サインしてしまえばそれが「動かぬ事実」となってしまいます。
ICレコーダーでも忍ばせておいて、脅されて署名した音声証拠が録れていれば別ですが、そういったケースは珍しいでしょう。
大切なのは、サインしない方が良いと判断したもの、サインしたくないと直感的に判断したものについては、絶対にサインしないことです。
「署名すれば退職金を増やす」や「今すぐ退職して良い」などの甘い言葉には要注意
企業側がサインさせたい一心で、退職金の増額や、退職日の融通といった好条件を引き換えに誓約書へのサインを求めることもあります。
これは本当に注意しなければなりません。下心があるとしか思えない取引ですし、これにつられてサインしてしまい、フタを開けてみたらとんでもない内容だったということにならないように、細心の注意を払いましょう。
その場で断りにくい時は一旦持ち帰らせてもらう
サインしたくない…と思っても、その場で拒否する勇気が出なければ「一旦持ち帰ってもう一度熟読してから判断しても良いですか?」や「私なりに確認したいことがありますので、持ち帰って調べてから判断しても良いですか?」といった風に「一旦持ち帰り」を打診してみてください。
この時に「知り合いの弁護士さんにも意見を聞きたいので…」といったパワーワードがあると、会社側も強くサインを求められなくなりますが、知人に弁護士がいない場合は「家族にも意見を…」などと言ってみても良いかと思います。
退職代行を利用すれば誓約書のリスクを事前回避できる可能性が高まる
最後に、退職代行を使って退職した場合の誓約書についてです。
例によって「機密情報漏洩防止」のための誓約書は、会社によっては全ての退職者に署名を求めるという決まりになっていることが多いため、退職代行を用いても郵送で誓約書が届いて署名して返送…という流れになることが多いのですが、それ以外の「怪しい」誓約書については、退職代行を用いることでそのリスクを事前回避できる可能性が高くなります。
労働者にとって不利になる誓約書は会社の決まりで全員に署名を求めるものではなく、その時々の退職者の状態によって作られることが多いため、退職代行を使って退職した人にわざわざ送り付ける可能性が低くなるのです。
また、依頼者が退職代行のスタッフに相談しやすいのも、妙な誓約書にうっかりサインしてしまうリスクを下げることに一役買っています。
もし、退職代行を利用して退職する際に、気になる誓約書が届いたら、退職代行スタッフに問い合わせてみると良いでしょう。
まとめ
- 労働者に誓約書を書かせることは法的に可能だが違法性が認められるケースもある
- 誓約書は一言一句漏らさずに確認して納得いかない場合は絶対に署名しない
- 気になる誓約書が届いた場合は退職代行スタッフに問い合わせ