退職代行で仕事の引き継ぎは本当にないの?懲戒解雇や損害賠償請求される可能性は?
会社を退職する時につきものなのが「引き継ぎ」です。
筆者も以前勤めていた会社を退職する際には、退職する3ヵ月前には退職の意向を伝え、上司と具体的に引き継ぎの方針(誰に何を引き継ぐのか、引き継ぎのスケジューリングなど)を相談し、最終出勤日までに引き継ぎ業務を終えてから退職しました。
しかし、最近話題となっている「退職代行サービス」を利用すると「即日退職」も可能だといいます。即日退職が可能という事は、引き継ぎはどうするんだろう・・・と思う方も多いのではないでしょうか。
引き継ぎしなくても退職できるものなのか、そして引き継ぎなどきちんとおこなわなかった場合に会社から懲戒解雇や損害賠償請求をされるような事はないのか、その不安と疑問を紐解いていきます。
目次
引き継ぎは絶対に必要ではない
まず、引き継ぎの必要性についてです。
結論から言うと、引き継ぎは必ずしも「絶対に必要」というわけではありません。
自分以外の社員や従業員の中に、自分がやっている業務を掌握している人がいる場合、引き継ぎは不要です。仮に「自分にしかできない」と自覚している業務があったとしても、社内でなんとかできそうな業務であり、実質的に引き継ぎをおこなわなかった事で会社に何か具体的な損害、実害が生じる事がない限りは引き継ぎをしなくても退職できます。
民法では退職希望日の2週間前までに退職の意向を会社に伝えれば、退職できる権利があるとされています。そして、有給休暇が2週間以上残っている場合には、会社に退職の意向を伝えた上ですぐに有給休暇を使う事で「退職する」と宣言したその日から会社に行かないという事も叶います。
もっとも、会社のルールとして「有給は取得日の2週間前までに申請する事」などの項目が定められているかもしれませんが、法律上はこの有給休暇についても取得できる権利が保障されているため、無理やり有給休暇を使って会社に行かないという手段を取る事は不可能ではありません。
つまり、引き継ぎなどおこなわなくても、退職できるのです。
引き継ぎをおこなわなければならないケースは会社に実害を与えるか否か
引き継ぎは絶対に必要ではないですが、例外的に引き継ぎをおこなわなければならないケースもあります。正確には、「引き継ぎをおこなわなければならない」というよりも「引き継ぎをおこなわなかった事で会社に訴えられる可能性がある」と言った方が良いかもしれません。
それは、引き継ぎをおこなわなかった事により、会社に何らかの具体的な実害を与えてしまうケースです。
例えば、退職した本人しか掌握していない情報などがあり、引き継ぎをおこなわずに退職した事により取引先を失うなどの実害が生じるケースが挙げられます。
この場合は、会社側から損害賠償請求をされるなど、訴えられる可能性があります。
ご自身が退職される際には、自分が引き継ぎをおこなわずに辞める事によって会社に実害を与える可能性があるかどうかよく考えましょう。
退職代行サービスを使って退職した場合に引き継ぎが不安ならやっておくと良い事
退職代行サービスを利用して退職する場合、退職代行サービスのスタッフがあなたに代わって会社に退職の意向を伝えます。場合によっては即日退職という事も可能ですので、「もう明日から(あるいは今日から)会社に行きたくない」というご希望も叶える事ができるのです。
ただし、会社からしてみれば「突然辞められた!引き継ぎもしないで!!」と思ってしまうかもしれません。
先ほどから述べている通り、引き継ぎは会社に実害が生じない場合は不要ですが、それでも「あれ、あの件ってもしかして自分しか分かってない?」とか「あの件に関しては自分しかできる人間がいないかもしれない・・・」などと不安になる事があるかもしれません。
会社側から「せめて引き継ぎだけでもしてくれ」と協議をもちかけられるケースもあります。こうなると、退職代行サービスのスタッフには直接交渉する権限が無いため、会社からの協議内容を伝える事しかできなくなってしまいます。
そんな時にやっておくと良い事は、簡単な引き継ぎ書を作り、会社に置いておくことです。
こうしておけば「引き継ぎに関してはデスクに簡易的な引き継ぎ書を置いておきましたので、そちらをご確認ください」のひと言で済ませる事ができます。
よりスムーズにスマートに退職できますし、会社から訴えられるかもしれない、会社から協議をもちかけられるかもしれない、という不安からも解放されます。
引き継ぎ書なんか作っている余裕なんて無いよ、というくらい激務で「今すぐ会社を辞めたい!もう行きたくない!」と思い、退職代行サービスを利用される場合は、退職の意向を伝えてから「引き継ぎに必要なメモを後日お送りします」と伝えるのもひとつの手です。
引き継ぎが不安の場合のポイント
- 簡単な引き継ぎ書を作って事前に会社においておく
- 退職前に引き継ぎ書を作成する時間がない場合は後で郵送する
懲戒解雇と損害賠償請求に関して
退職代行サービスを利用した事によって会社から何らかの制裁があるのでは、と漠然とした不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
会社からの制裁といって思い浮かぶのは、懲戒解雇と損害賠償請求です。
懲戒解雇とは、事業主が従業員に課す事ができる罰則のひとつで、長期無断欠勤や会社の金品横領など、会社に大きな損害を与える行為をおこなったり、飲酒運転や痴漢、窃盗など、違反行為や犯罪行為をおこなったりした場合に従業員を解雇するものです。
懲戒解雇という前歴がついてしまうと、転職や再就職の際に非常に不利になります。
損害賠償請求は、会社から従業員に請求される場合は、重大なミスや悪意を伴う行為により会社に損害、実害を与えた場合に請求されるものです。
重要顧客や取引先を失い会社の利益を著しく損ねたり、会社から損害賠償を支払わなければならないような事態を引き起こしたり、何らかの形で会社に損害、実害が生じた際にその原因を作った従業員に請求される事があります。
では、退職代行サービスを使い退職する事で、懲戒解雇、損害賠償請求をされる事があるのかどうか、見ていきましょう。
退職代行サービスを使った事により会社から懲戒解雇をされる可能性は極めて低い
まず、懲戒解雇からです。
退職代行サービスを使い退職する事により懲戒解雇の処分を受けるケースは極めて低いです。ゼロとは言い切れないのですが、その原因は退職する前から無断欠勤が続いていた事などに起因するため、退職代行サービスを使って事そのものが懲戒解雇の理由になる事はまず無いと言えます。
懲戒解雇は先ほど述べた通り、犯罪や違法行為がその対象となります。退職代行サービスは法律を守った上で、全ての人々に等しく保障されている退職の権利を会社側に伝えるサービスですので、懲戒解雇の理由にはなりません。
退職代行サービスを使った事により会社から損害賠償請求をされる可能性は極めて低い
続いて、退職代行サービスを使った事によって会社から損害賠償請求をされる可能性についてですが、こちらの方が懲戒解雇よりも若干可能性が高くゼロとは言えません。
退職者が退職する事により会社に甚大な実害が生じる場合は、会社は損害賠償を請求する事ができるためです。ただし、損害賠償を請求するためには裁判を起こさなければなりません。この裁判にはかなりの金額と時間がかかります。そして、実際に損害賠償金として請求できる金額は、実害分の費用よりもかなりの少額となってしまうケースが多く、「金と時間と労力を使ってまで請求するものではない」と判断される事がほとんどです。
また、ほとんどの退職希望者の方が、退職する事によって会社に実害を生じさせるという方ではないため、例え引き継ぎをおこなわずに即日退職をしたとしても、会社から損害賠償を請求される事は無いと言えるでしょう。
まとめ
- 即時退職でのトラブルを避けるためには引き継ぎ書を作成しておくとよい
- 辞職は労働者の権利であるため、退職代行サービスを使って事そのものが懲戒解雇の理由になることはない
- 退職代行サービスを使った事によって会社から損害賠償請求の可能性はあるものの、費用と労力の関係上ほとんどない