最後の給料が手渡しなのはなぜ?取りに行きたくない人のための3か条

会社を辞める際は誰もが円満退職できるわけではありません。会社側との関係が良好でない場合、退職前後で心ない嫌がらせをされるケースがたまにあります。なかでも「最後の給料は手渡しになるから取りに来い」と指示されることが多いようです。
直接取りに行きたくないとしても、給料が受け取れないのは困りますよね。そこでこの記事では、最後の給料の受け取り方についてご紹介します。

給料は本人に手渡しが原則

給料を受け取るのは労働者の権利であり、給料の支払いは使用者(会社)の義務です。そのため、どのような事情があるにせよ給料が支払われないということはありません。労働基準法に定められている通り、退職をした場合でも必ず給料は受け取れます。会社で定められた給料日にかかわらず、こちらから請求すれば7日以内に給料を手にすることも可能です。

第二十三条
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

引用元: e-Gov

第二十四条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

引用元: e-Gov

ただし、労働基準法第24条にある「通貨で、直接労働者に」というのは、「現金で本人に手渡しする」ということを意味します。口座振込に関してはお互いの合意があり、労働者名義の口座に振り込むからこそ成り立っている例外措置なのです。そのため、会社から手渡しと言われた場合には、正当な理由がない限り拒むのは難しいと言えるでしょう。

とはいえ、もともと給料が振込で支払われていた場合は、最後の給料もそれまで通り振込で支払われることがほとんど。仮に手渡ししかできないと言われたとしても交渉の余地はあります。

なぜ最後の給料だけ手渡しなのか

振込で給料が支払われていた場合でも、退職したら最後の給料が振り込まれず「直接取りに来い」と言われるケースがごく稀にあります。なぜ突然手渡しになるのか不安になりますよね。最後だけ手渡しになる理由を3つに分けたので、それぞれ詳しく見ていきましょう。

①書面で明確に定められているため

もし、振込で給料が支払われていたのに、退職後だけ手渡しだと言われたら、まずは社内規定・就業規則・労働契約などを確認しましょう。会社によっては「退職月、それに準じた月の支払を手渡しとする」などと規定に明記されていることがあります。この場合は、記載の通り最後の給料は手渡しです。直接取りに行けない事情があるときは、それを説明することで口座振込にしてくれるかもしれません。

なお、既に退職済みで規定の確認ができない場合は、総務部にあたる部署に問い合わせてみると良いでしょう。

②書類等の受け渡しも兼ねるため

退職日には渡せないけれども、退職後に会社から受け取らなければいけない書類がいくつかあります。たとえば離職票や源泉徴収票などです。一般的には郵送されることが多いですが、確実に渡したという証明が欲しいなどの理由で直接渡すようにしている会社もあるでしょう。受領印や書類へのサインなどが必要なため、規定にはないものの最後の給料は手渡しにしたいと考える場合もあり得ます。

また、あまりないことではありますが、退職しても社員証や制服、保険証などをいつまでも返さないという人もいます。過去にこのようなトラブルがあった場合には、会社も慎重にならざるを得ません。その結果、返却漏れ(貸与物の私物化)を防ぐために、最後の給料だけ手渡しで指示する会社もあります。

このような理由であれば、会社から着払いで郵送してもらう、退職日までにすべての貸与物を返却するといった対応をすることで交渉が可能です。最後まで口座振込にできないか、手紙やメール、電話などで依頼してみましょう。

③単なる嫌がらせのため

「会社が私怨で動くなんて」と思う方もいるかもしれませんが、退職者にプレッシャーをかけたいからという理由で必要性も無いのに取りに来ることを強要される場合があります。特にブラック企業やパワハラ体質の上司がいる会社に多いです。

このケースでは、抗議文などで取りに行きたくないと主張・交渉したとしても聞く耳を持ってもらえない可能性が高いでしょう。こういった場合は、どうしようもないからと諦めて会社の指示に従いたくなるかもしれませんが、最後の給料を取りに行く際にパワハラやセクハラなどを受ける恐れがあります。

労働基準監督署に賃金不払いで申告をしたり、労働問題に強い弁護士に相談したりするのがおすすめです。会社によっては労働基準監督署に申告すると伝えるだけで手のひらを返すことも。後ろ暗いところがあると「規定にないのに手渡しを強要し、給料を支払わない」という問題だけでは済まない可能性があるので、外部調査はできるだけ避けたいからです。第三者機関に頼ることで、案外あっさり主張が通ることもあります。

もともと手渡しで給料をもらっている場合

もともと手渡しで給料をもらっている場合は、最後の給料も手渡しされるのが普通です。しかし、退職した後に給料だけ受け取りに行くのは気が引ける……という方もいるのではないでしょうか。

普段から手渡しで給料を受け取っているものの退職後は取りに行きたくないというケースにおいて、どのような対応をしたら良いのかを見ていきます。

振込や書留での支払いを依頼する

まずは、振込や書留で最後の給料を支払ってもらえないかどうかを確認すると良いでしょう。事情があって取りに行くことができないため、振込もしくは書留で送金してほしいと伝えてみてください。既に転職先で働き始めていたり、親の介護が必要だったり、地方の実家に帰省していたりと、取りに行けない事情はいろいろ考えられると思います。

一般的な会社であれば、このような事情に配慮した対応を取ってくれるはずです。ただし、自己都合で通常とは異なる手続きをしてもらうのですから、振込手数料や郵送料は自分で負担すると申し出ましょう。自分から申し出ることで要望を聞き入れてもらいやすくなります。

家族や友人に代理で受け取ってもらう

自分で給料を取りに行きたくないなら、家族や友人に代理で受け取ってもらえないだろうかと考える人もいるでしょう。しかし、代理での給料の受け取りは、先ほどの労働基準法にも記載があった通り原則認められていません。たとえ委任状を持ってきた代理人であっても不可です。労働者が未成年の場合、親権者が受け取りに行くケースもありますが、この場合でも代理受領はできません。

ただし、一つだけ例外的な手続きがあります。使者(本人の意思表示を相手方に伝達する人)を立てれば給料を代わりに受け取ってきてもらうことが可能です。使者と代理人の違いが分からないという方もいると思いますが、法律の観点からすると明らかに大きな違いがあります。

使者は「本人」の手足となって動く人のことです。与えられた命令や遂行内容に対し、使者自身の自由意思や判断は存在しません。
一方、代理人は「本人」の持つ権利の一部または全部を預けられた人のことです。その権利をどう扱うかは代理人の意思や判断にゆだねられます。

このような違いがあるので、たとえば代理人であれば給料を受け取る行為だけを代理し、本人に給料を渡すことなく自分の財産として管理することも可能なのです。このような事態を防ぎ、労働者の権利を守るために労働基準法第24条はつくられています。

では具体的にどのようにすれば使者として認めてもらえるのでしょうか。会社側が何をもって判断するかにもよりますが、概ね以下の3つが揃っていれば使者と認められ、給料の受け取りが可能になります。

  • 本人が来られない正当な事情がある
  • 使者が受け取りに行くと本人から事前連絡がある
  • 受取人が使者選任届を持っている

とはいえ代理人と使者の見分けは難しく、必ずしも使者による受け取りが認められるとは限りません。少しでも確実性を高めるために、会社に受け取りに行く際は、使者選任届だけでなく「本人」の免許証など、身分証明書を持って行ってもらうと良いでしょう。

※本人とは当事者のことであり、ここでは退職者を指します

参考:厚生労働省
参考:図解六法

会社側のアクションを待つ

振込や書留でお願いできないかと打診しても断られ、使者による受取も断られてしまったら、一旦放置しておくのも一つの手です。

先ほどご紹介した通り、労働基準法第24条があるので、給料の支払いは会社が果たさなければならない義務であり、発生した給料を労働者に支払わないことは法律違反となります。

ちなみに給料の債権時効は3年です(2022年3月現在)。給料を受け取れる日から3年以内であればいつでも賃金請求権を行使できます。つまり、同じ期間だけ会社側にも弁済義務(支払い義務)が生じるということです。

3年過ぎるのを待つという会社もあるかもしれませんが、その間何もせずにいては義務の怠慢になってしまいます。「身元保証人や家族に連絡を取る」「本人の口座に振り込む」「本人の住所に現金書留にて送付する」「法務局へ供託する」などの方法で、可能な限り使用者としての義務を果たすよう努力しなければなりません。

このような努力をすることなく時効を待つだけでは、単なる給料未払い状態です。仮に労働基準監督署へ「取りに来るよう催促しているのに本人が来ない」と主張したとしても、使用者としてできる限りの努力をしたとはみなされません。むしろ、指導の対象となってしまいます。

ですから、長期間手渡しを拒否していれば、会社側が何らかのアクションを起こす可能性が高いのです。会社の出方を伺いながら、気長に待ってみるのも良いでしょう。時効が近づいてきたにもかかわらず、一向に何のアクションも無い場合には、改めて「指定する口座に給料を支払ってほしい」という旨の抗議文を送るか、労働基準監督署に申告すると良いですね。

なお、口座振込や現金書留を希望するのであれば可能性は低いですが、3年間も給料を保管するのは面倒だからと法務局へ供託されることも考えられなくはありません。この場合には「供託通知書」が届きます。これが届いたら速やかに供託受諾書を作成・提出しましょう。しかるべき手続きののち、給料を受け取ることが可能です。詳しい案内は該当する供託所に確認を取ってみてください。

最後の給料までしっかり受け取るために

今回は最後の給料が手渡しだった場合の理由や、取りに行きたくないときの対応方法について、法律的な観点も踏まえながらご紹介しました。これは、懲戒解雇された場合や退職代行サービスを利用した場合でも適用できます。

記事の内容を踏まえて、一つひとつ対応を取ってみてください。金額の大小にかかわらず、あなたが働いて稼いだお金です。きちんと受け取り、後腐れなく次のステージへ進みましょう。

※本記事は2022年3月時点の情報をもとに作成したものです。最新の情報については、厚生労働省や法務省の公式サイトをご確認ください。